金沢弁護士会 弁護士会からの意見表明


光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明
犯罪被害者の刑事手続参加に反対する会長声明
教育基本法改正に反対する会長声明
特例金利に反対する会長声明
共謀罪法案の会長声明
共謀罪の新設に反対する決議
少年法等の一部改正法案に関する会長声明

■光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明

1 広島高等裁判所に現在係属中の殺人等被告事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)に関し,日本弁護士連合会宛てに弁護人を脅迫する書面等が届けられ,報道によれば,その後,同連合会に送付されたものと類似のものが新聞各社にも送付されたとのことである。当会は,このような脅迫行為に対し,厳重に抗議するため本声明を発表する。

2 この事件は,母親と幼い子どもの命が失われた大変痛ましいものであり,遺族の心情も察するに余りあるものである。また,社会的にも大きな影響を与えており,国民に広く関心が集まっている。

 しかしながら,このような遺族の方々の心情や社会的な影響と関心の大きさがどのようなものであるかに関わりなく,被告人の弁護人依頼権の保障は充分になされなければならず,その権利実現のための弁護人の活動に対して脅迫的な妨害行為がなされることは断じて許すことができない。

3 憲法37条3項は,「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定する。

 いかなる場合であっても,弁護人を依頼する権利が保障され,十分な防御の機会が与えられなければならない。これは,被告人に適正な裁判を受ける権利を保障するものであり,人類が歴史を通じて確立してきた大原則である。この原則は,いかなる時代にあっても,また,いかなる刑事事件であっても,実現されなければならない。そして,弁護人は,被告人のために最善の努力をすべき責務を負っているのである。

 また,国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は,第1条において人権と基本的自由を適切に保護するため,「すべて人は,自己の権利を保護,確立し,刑事手続のあらゆる段階で自己を防御するために,自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」と定め,第16条において「政府は,弁護士が脅迫,妨害,困惑あるいは不当な干渉を受けることなく,その専門的職務をすべて果たし得ること,自国内及び国外において,自由に移動し,依頼者と相談し得ること,確立された職務上の義務,基準,倫理に則った行為について,弁護士が,起訴,あるいは行政的,経済的その他の制裁を受けたり,そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。

 価値観が多様化し,複雑な権利関係が鋭く対立する現代において,国内外を問わず,力によらず言葉により基本的人権の擁護と社会正義の実現を目指す弁護士の役割は,民主主義の基盤として,ますますその重要性を増している。

4 しかるに,今回の脅迫行為は,民主主義の基盤として極めて重要な役割を担う弁護士の活動を暴力によって威嚇し,人類の歴史を通じて確立してきた大原則である弁護人依頼権を踏みにじろうとする極めて卑劣なものであって,断じて許されるものではない。これは,まさに民主主義への挑戦である。

 当会は,今回の脅迫行為に対し,厳重に抗議するとともに,今後も刑事弁護に携わるすべての弁護士がこのような卑劣な行為に決して屈することなく,その職責を全うすることができるよう,最大限支援していく決意をここに表明する。

                                

2007(平成19)年7月19日 

                      金沢弁護士会

                    会長 今  井     覚

■犯罪被害者の刑事手続参加に反対する会長声明


 犯罪被害者および遺族の刑事手続き参加を認める「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が既に衆議院で可決され、参議院に係属中である。被害者参加制度は、犯罪被害者等に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人に対する直接質問、求刑を含む意見陳述等を認めているが、この制度は、近代刑事司法の理念に反し、被告人に認められた憲法上の適正手続保障をそこないかねない。

  

1.近代刑事司法の構造を変容させる 
 近代刑事司法は、国家機関たる検察官に起訴および訴訟追行を独占させ、有罪立証は 検察官の責任とされ、被告人・弁護人がこれを弾劾するという二当事者対立構造をとっているが、被害者参加制度は、犯罪被害者等に「被害者参加人」という法的地位を与え、検察官の活動から独立した訴訟活動を認めることになる。これは、二当事者対立構造を変容させ、近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させることになる。
    

2.真実発見に障害となる
 刑事司法は、無罪推定の原則のもと、予断と偏見を排除し、被告人は法廷において任 意に供述できる防御の機会が保障されなければならない。法廷で犯罪被害者等が被告人と対峙することになれば、被告人は多大な心理的圧迫を受けて萎縮し、本来なすべき供述や弁論が出来なくなるおそれが大きい。犯罪被害者等から直接質問されれば、犯罪被害者の落ち度など重要な争点につき被告人は沈黙せざるを得なくなる場合も生じ、防御権が実質的に侵害され、実体的真実の発見がゆがめられ、証拠に基づく冷静な事実認定と公平な量刑の実現が阻害されかねない。

3.裁判員に過度の影響を与える 
 2009年5月までに施行される裁判員制度は、元々被害者等の参加が考慮されておらず、被害者参加制度が導入されれば、情緒的で影響を受けやすい裁判員は犯罪被害者等の意見や質問に大きく左右され、冷静かつ理性的な事実認定が困難となり、過度の重罰化に傾く危険性が容易に予想される。また犯罪被害者等の手続き参加により争点の拡大や訴訟遅延ないし混乱を来すことは明白で、公判前整理手続きによる適切な争点と証拠整理、連日開廷による充実した迅速な審理の実現に大きな支障を招く。


4.犯罪被害者等に対しては、支援・救済が優先さるべき 
 犯罪被害者等が刑事裁判に対して抱く不満の多くは「事件の当事者」でありながら刑事手続きに充分な情報提供を受けられないため、「知りたい」という願いが満たされないことや検察官の訴訟活動に自らの思いが反映されていないことに起因する。こうした不満に対応するためには被害者等の検察官に対する質問・意見表明や公費による弁護士支援制度および経済的保障制度などを早期に導入し、精神的・経済的支援体制を構築、充実させることこそが重要視されなければならない。


  よって、被害者参加制度の新設に反対する。

                              2007(平成19)年6月13日
                                             金沢弁護士会                                       
                会長  今井 覚

■教育基本法改正に反対する会長声明

1.
 本年4月28日、政府による教育基本法改正法案が国会に上程され、その後、対案としての民主党案も提出され、それらは衆議院特別委員会で実質審議に入った後、同年5月30日、継続審議とされました。

  そして、今月20日に行われた自民党総裁選の後、同党執行部は、26日に開会の今臨時国会で同法案の早期成立を目指すことを表明しています。

2.
 ところで、当会では、子どもの権利委員会の委員を中心として、20年近くにわたって「子どものなやみごと相談」での相談活動や子どもの人権擁護活動を行い、また、それ以前から非行を犯してしまった少年たちの付添人としての活動を熱心に行ってきました。

  そのような子どもに関わる諸活動の経験から、私たちは、今国会で審議される教育基本法の改正案に対し、強い危惧の念を覚えるものです。

3.
 というのは、私たちが従来の子どもに関わる活動を通じて感じているのは、現行の教育基本法に不備があるから子どもたちが問題行動を起こしている、あるいは、不登校になったり、いじめの加害者や被害者になっているということでは全くないからです。むしろ、現在においても学校教育が、学力偏重、過度に競争的な教育制度となっており、多くの「落ちこぼれ」の子を生み出すなどしていて、本来楽しいはずの場が、逆に、子どもにとって非常にストレスの多い場となっていることにこそ問題があるということです。

   また、現行の教育基本法が、前文及び第1条の教育の目的で掲げている「個人の尊厳を重ん」ずること、「個人の価値をたつと」ぶということが、現実にはまだまだ充分ではなく、学校現場においては、「どんな子どもであっても1人1人の子どもが大切にされる」というよりは、「問題のある子どもは多数の子どものために切り捨てる」という傾向になりつつあることが、より多くの子どもたちを非行やいじめ行為、不登校に追いやっていると考えています。

4.
 そうした体験から、今回の教育基本法改正案を見るとき、いずれの改正案も、むしろ、従来禁止されていた教育内容にまで政府が過度に介入する途を開くなど(教育行政についての、現行教育基本法10条2項、政府案16条、民主党案18条)、これまで以上に、全国一律の競争的な教育制度になるのではないか、また従来不充分であった子どもの人権への配慮がますます忘れさられるのではないか(政府案第1条「教育の目的」から「個人の価値をたつとび」が削除されている)、さらに特定の信条・思想・倫理観などが教育の場に持込まれ、それを子どもたちに強制し、また、成績として評価することで、子どもたちがますます学校の場から離れていくのではないか(政府案第2条教育の目標)、その結果、従来以上に、多くの子どもが落ちこぼれ、切り捨てられ、非行に走ったり、いじめをしたり、不登校になったりするのではないかという強い不安を感じます。

5.
 以上の観点から、当会としては、今般の教育基本法改正案のいずれもが廃案とされる事を強く望み、その旨、表明します。


2006(平成18)年9月29日

金沢弁護士会
会長 木梨 松嗣

                                      


■特例金利に反対する会長声明

賃金業制度及び出資法の上限金利の見直しを検討していた金融庁は,本年9月5日,自民党に出資法などの改正案を提示し,本年9月15日,自民党金融調査会など合同会議では金融庁案を修正する合意がなされた。

 自民党に提示された金融庁の改正案は,出資法の上限金利を利息制限法の上限金利に一本化するものとしながらも,上限金利の引き下げ時期は法改正から4年後とし,しかも,「元本50万円,返済期間1年」または「元本30万円,返済期間半年」の個人向け小額短期貸付,「元本500万円,返済期間3ヶ月程度」の事業者向け貸付については,出資法の上限金利引下げ後も最長5年間,年利28パーセントもの高金利を特例金利として容認すること,利息制限法の金利区分を変更すること,年利15パーセントから20パーセントの間の違反は刑事罰ではなく行政処分で対応することなどを内容としていた。

 これを受けて,自民党金融調査会など合同会議では,上限金利の引き下げ時期を法改正から3年後に短縮し,特例金利を「返済期間1年以内,融資額30万円まで」個人向け,「返済期間3カ月,融資額500万円まで」の事業者向けについて,年利25・5パーセントまでとし,特例期間を2年間に短縮するなど金融庁案を修正する合意がなされ,政府・与党は今臨時国会に改正案を提出する予定であることが報道されている。

 しかしながら,今回の法改正は,賃金業規制法43条のみなし弁済規定の適用を否定し,利息制限法によって債務者を救済すべきことを示した相次ぐ最高裁判所の判決を受けて,200万人以上にのぼると推定される深刻な多重債務者問題を解決することを目的としたはずのものである。

 ところが,今回の金融庁改正案及び自民党金融調査会などの合同会議修正案は,多重債務問題の根本原因となっていたグレーゾーン金利を撤廃するのではなく,一定範囲で存続させることを認めるものであるうえ,利息制限法の金利区分を変更して債務者によっては金利負担がこれまでよりも増えてしまうことを認めるなど,明らかに多重債務者問題の解決という法改正の目的に逆行するものとなっている。

 よって,金融庁改正案及び自民党金融調査会などの合同会議案には断固として反対するとともに政府・与党・国会に対し,法改正においては,以下のことを貫徹するよう求める。

 1 賃金業規制法43条のみなし弁済規定を改正法施行と同時に廃止すること。

 2 出資法の上限金利を改正法施行と同時に現行利息制限法の金利区分による上限金利まで引き下げ,グレーゾーン金利を存続させないこと。

 3 小額短期・事業者特例などグレーゾーン金利を容認する例外は一切認めないこと。

 4 保証料などの名目による金利規制の脱法を一切禁止すること。



2006(平成18)年9月29日

金沢弁護士会
会長 木梨 松嗣

■共謀罪法案の会長声明

4月21日、衆議院法務委員会は、共謀罪導入のための法律案について審議入りした。与党から修正案が提案されたが、この間、日本弁護士連合会をはじめ当会を含む多くの単位弁護士会が指摘してきた問題点は何ら解決されていない。

そもそも、本法案は次のような問題点を有しており、この点は修正案でも解消されていない。

第1に、本法案が導入しようとする共謀罪は、犯罪が実際に発生する以前、関係者が犯罪を起こすことを合意したことのみで処罰できるとするものである。刑法では、予備行為を処罰する犯罪でさえ殺人罪等ごく一部に限られていたのであり、本法案は、このような刑法の体系を根本から覆すものである。

第2に、対象犯罪が619にも及び、あまりに広範な内容となっている。現実に組織犯罪集団が行うと予測される犯罪類型に限定して立法することは可能である。

第3に、本法案は、国連越境組織犯罪防止条約に基づいて作られたものであるが、同条約は、国境を越える性質を持った組織犯罪を防止する目的で起草されたものである。条約の批准を一部留保するなどの方法によって、我が国の国内法として、国境を越える犯罪に限って適用する旨を規定することは、条約の趣旨に反するものではない。

第4に、自首した者の罪を減免するという規定が盛り込まれているが、この規定は、一旦共謀に加わった者は、犯罪の実行をやめることを合意してもそれだけでは共謀罪の適用を免れることができず、さらに警察に自首する以外に刑罰を免れる手段がないことを示している。この点は共謀罪の本来的な問題点を如実に示すものであると同時に、共謀を持ちかけた側のみが自首により刑罰を免れることがあり得るという点で、この規定自体にも問題がある。

さらに、修正案についても以下のとおり問題点がある。

第1にこの修正案は、あくまでも団体の「活動」に着目して限定を加えたものであって、必ずしも、「団体」がどこまで限定されているかは明らかでない。現実に過去に犯罪を遂行してきた事実も要件とされていない。団体の一部の構成員が一定の犯罪の共謀を行ったことのみをもって、団体に犯罪目的ありと解釈される可能性がある。むしろ端的に、文字通りの組織犯罪集団が関与する場合に適用範囲を限定するべきである。

第2にこの修正案においては、共謀に加えて、「犯罪の実行に資する行為」が必要とされている。この概念は、犯罪の準備行為よりもはるかに広い概念であり、犯罪の実行にはさしたる影響力を持たない精神的な応援などもこれに含まれる可能性があり、共謀罪の適用場面において、ほとんど歯止めにならない。少なくとも、犯罪の実行の「準備行為」が行われたことを明確に要件とするべきである。

以上の通り、この法案がもともと有している多くの問題点は修正案によっても是正されていない。当会は、昨年9月29日に共謀罪法案に反対する総会決議をあげ、本年3月11日に共謀罪法案に反対する市民集会を開いてアピールを採択したが、引き続き本法案に強く反対し、その抜本的見直しを求め、運動を継続・強化していくものである。


2006(平成18)年9月29日

金沢弁護士会
会長 木梨 松嗣



■共謀罪の新設に反対する決議

1.
 第156回国会に「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれて提出され、第159回国会に「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれて提出されたものの、いずれも廃案となった「共謀罪」に関する規定は、第163回国会に再上程されることが必至の情勢である。

2.
 共謀罪は、「死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている犯罪について」、「団体の活動として」、「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を処罰の対象とするものである。共謀罪の適用対象となる罪名は600を超える非常に広範囲なものとなっている。

3.
 「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議あるいは謀議の結果として成立した合意のことをいう。
 犯罪は一般的に、犯罪を決意し(意思)、準備に取りかかり(予備)、実行に着手し、結果を発生させて既遂となる。
 実行行為のない予備は原則として不可罰であり、ましてや外形的行為の認められない意思の段階は処罰しないというのがわが国刑法の原則である。
ところが、共謀罪は、意思の段階に過ぎない「共謀」それ自体を処罰の対象とする。まさにそれは「意思」を処罰するものであって、刑法の原則に反するものといわざるを得ない。
また、わが国においては、判例によって共謀共同正犯理論がとられ、共謀者の一部が犯罪の実行に着手した場合、他の共謀者も罪責を負うこととされている。
 共謀共同正犯理論自体については学説上異論もあるが、それでもこの理論においては、実行の着手が犯罪成立の絶対的要件とされている。
 ところが、共謀罪は、実行の着手がなくても犯罪の合意だけで犯罪が成立するというものであるから、近代刑法の基本原理である客観主義を否定するものである。

4.
 その上、共謀罪の構成要件には、「団体の活動」、「当該行為を実行するための組織」、「共謀」などといった文言が用いられており、その内容や定義は極めて広汎かつ不明確であり、濫用の懸念が払拭できず、一般の政党、NPOなどの市民団体、労働組合、企業等の活動も処罰の対象となるおそれがある。
 例えば、市民団体がマンションの建設に反対して着工現場で座り込みをすることを相談しただけで、組織的威力業務妨害罪の共謀罪が成立する可能性すら否定できないものとなっている。
 したがって、共謀罪は、明確性の原則、実質的デュープロセス等、刑法の基本原理である罪刑法定主義にも反するおそれの高いものである。

5.
 しかも、共謀罪の制定は国連越境組織犯罪防止条約の国内法化のための立法であるとされており、同条約の制定過程においては、日本の法制度の基本原則から見て不可能であり、また、国内に立法事実はないとして、わが国政府ですらその成立には反対していたにもかかわらず、共謀罪の規定内容を見ると、条約が要請している「組織犯罪集団が関与したもの」という限定を撤廃し、また、条約がその精神において求めている犯罪の「越境性」も構成要件とされておらず、条約を上回る広範な立法となっている。

6.
 そして、共謀罪は、「相談」や「会話」自体を処罰するものであるから、その立証にあたっては、会話を録音した媒体や関係者の供述に頼らざるを得ず、その結果、捜査機関が市民の一般的な会話や電話、電子メールのやりとりなどに対する監視ないし管理を強化していくという事態をもたらしかねず、盗聴や密室における自白の強要等、従来から人権侵害の危険性が指摘されてきた捜査が今まで以上に頻繁に行われる可能性が極めて高くなる。

7.
 以上述べてきたように、共謀罪は、わが国刑法の原理に反し、思想、表現の自由などの人権を侵害するおそれが極めて高い。

 よって、当会は、人権保障の見地から、共謀罪の新設に断固反対するものである。

2005(平成17)年9月29日

金沢弁護士会
会長 久保 雅史


■少年法等の一部改正法案に関する会長声明

政府は、本年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、同日付けで今国会に提出した。
この改正法案は、@いわゆる触法事件等について警察の強制調査権を認める、A14歳未満の少年でも少年院送致を可能とする、B保護観察中に遵守事項に違反した少年の少年院送致を可能とする等の内容が含まれ、児童相談所の調査機能や児童自立支援施設の「育てなおし」機能を大きく後退させ、保護観察制度の根底を揺るがすものであることから、以下のとおり、少年の福祉を害する恐れがあるといわざるを得ない。

1 触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与について
低年齢の少年に対する調査は、本来、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。触法少年等への調査や処遇の現状には不十分な点があるとの意見もあろうが、これに対しては、児童相談所をはじめとした福祉的・教育的施設の人的・物的な拡充を図ることによって対処すべきであり、警察権限の拡充によって解決しようとすることには賛成できない。
そもそも、被暗示性、迎合性が強い低年齢の少年に対し、児童の福祉や心理に専門性を有していない警察官が中心となって取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、真相解明が阻害される恐れがある。また、非行少年に児童虐待の被害経験者も多いことは、多数の専門家が指摘しているところであり、非行少年は、生育歴や家庭環境の要因から情緒が十分に育っていない等の精神的な問題を抱えている。かかる少年に対して、ぐ犯の名の下に、警察官による取調べ類似の質問調査を行えば、少年は、さらに傷つけられ、その立ち直りが阻害されることにもなる。さらに、警察からの学校その他の公務所への照会は、警察権力による福祉・教育への不当な干渉を招く恐れがあるのみならず、少年の立ち直りの環境を悪化させることが懸念される。

2 少年院送致年齢の下限の撤廃について
今般の改正法案は、法的には、小学生はもちろん未就学児童でも少年院に送致できるという内容であり、到底賛成できない。
年齢の低い少年を家族から分離して更生を図らなければならない事案の場合は、暖かい擬似家庭の中で、人間関係を中心とした生活力を身に付けさせるべきであり、また、そうすることによって被害者等への真摯な思いを育むことが必要である。このような理念のもと、現行法は、児童自立支援施設を設け、「育てなおし」の実績をあげている。低年齢の少年を集団的規律の場である少年院へ送致しても「育てなおし」にはならず、再犯防止の実効性にも疑問がある。
家族からの分離処遇を施すべき14才未満の少年については、十分な児童自立支援施設等による福祉的対応こそ必要であり、そのためには施設等の充実強化が図られるべきである。

3 遵守事項違反を理由とする少年院送致について
少年に一旦保護観察処分を言い渡した後に、ぐ犯にも該当しない単なる遵守事項違反を理由として、さらに少年院送致処分を言い渡すというのは、憲法が禁止する「二重処罰」に当たり、許されないというべきである。
保護司のもとへ面接に来ない少年があったとしても、保護観察官・保護司による粘り強いケースワーク的工夫によって対処すべきである。少年院送致という威嚇を手段として、遵守事項を守らせようとすることは、少年と保護司との信頼関係に基づき、少年の自主的な努力による成長を助けるという保護観察制度の趣旨を大きく変容させるもので、賛成できない。

以上のとおり、今回改正の対象になっている事項に関しては、現状の不十分な点があるとすれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。当会としては、今回の改正法案には賛成できない。
なお、今回の改正法案では、極めて限られた範囲ではあるが、従前の検察官関与事件と切り離して、非行事実に争いがない場合であっても、国費で付添人を付する制度を設けた点は評価できる。しかし、少年鑑別所に収容された少年の全員に国費による付添人選任権を保障するとの観点からすれば、今回の改正法案は不十分であり、かかる国選付添人制度のいっそうの拡充は必要である。

2005年(平成17年)7月1日

金沢弁護士会
会長 久保 雅史


金沢弁護士会

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