-
少年法等の一部改正法案に関する会長声明
政府は、本年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、同日付けで今国会に提出した。
この改正法案は、①いわゆる触法事件等について警察の強制調査権を認める、②14歳未満の少年でも少年院送致を可能とする、③保護観察中に遵守事項に違反した少年の少年院送致を可能とする等の内容が含まれ、児童相談所の調査機能や児童自立支援施設の「育てなおし」機能を大きく後退させ、保護観察制度の根底を揺るがすものであることから、以下のとおり、少年の福祉を害する恐れがあるといわざるを得ない。
1 触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与について
低年齢の少年に対する調査は、本来、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。触法少年等への調査や処遇の現状には不十分な点があるとの意見もあろうが、これに対しては、児童相談所をはじめとした福祉的・教育的施設の人的・物的な拡充を図ることによって対処すべきであり、警察権限の拡充によって解決しようとすることには賛成できない。
そもそも、被暗示性、迎合性が強い低年齢の少年に対し、児童の福祉や心理に専門性を有していない警察官が中心となって取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、真相解明が阻害される恐れがある。また、非行少年に児童虐待の被害経験者も多いことは、多数の専門家が指摘しているところであり、非行少年は、生育歴や家庭環境の要因から情緒が十分に育っていない等の精神的な問題を抱えている。かかる少年に対して、ぐ犯の名の下に、警察官による取調べ類似の質問調査を行えば、少年は、さらに傷つけられ、その立ち直りが阻害されることにもなる。さらに、警察からの学校その他の公務所への照会は、警察権力による福祉・教育への不当な干渉を招く恐れがあるのみならず、少年の立ち直りの環境を悪化させることが懸念される。
2 少年院送致年齢の下限の撤廃について
今般の改正法案は、法的には、小学生はもちろん未就学児童でも少年院に送致できるという内容であり、到底賛成できない。
年齢の低い少年を家族から分離して更生を図らなければならない事案の場合は、暖かい擬似家庭の中で、人間関係を中心とした生活力を身に付けさせるべきであり、また、そうすることによって被害者等への真摯な思いを育むことが必要である。このような理念のもと、現行法は、児童自立支援施設を設け、「育てなおし」の実績をあげている。低年齢の少年を集団的規律の場である少年院へ送致しても「育てなおし」にはならず、再犯防止の実効性にも疑問がある。
家族からの分離処遇を施すべき14才未満の少年については、十分な児童自立支援施設等による福祉的対応こそ必要であり、そのためには施設等の充実強化が図られるべきである。
3 遵守事項違反を理由とする少年院送致について
少年に一旦保護観察処分を言い渡した後に、ぐ犯にも該当しない単なる遵守事項違反を理由として、さらに少年院送致処分を言い渡すというのは、憲法が禁止する「二重処罰」に当たり、許されないというべきである。
保護司のもとへ面接に来ない少年があったとしても、保護観察官・保護司による粘り強いケースワーク的工夫によって対処すべきである。少年院送致という威嚇を手段として、遵守事項を守らせようとすることは、少年と保護司との信頼関係に基づき、少年の自主的な努力による成長を助けるという保護観察制度の趣旨を大きく変容させるもので、賛成できない。
以上のとおり、今回改正の対象になっている事項に関しては、現状の不十分な点があるとすれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。当会としては、今回の改正法案には賛成できない。
なお、今回の改正法案では、極めて限られた範囲ではあるが、従前の検察官関与事件と切り離して、非行事実に争いがない場合であっても、国費で付添人を付する制度を設けた点は評価できる。しかし、少年鑑別所に収容された少年の全員に国費による付添人選任権を保障するとの観点からすれば、今回の改正法案は不十分であり、かかる国選付添人制度のいっそうの拡充は必要である。
2005年(平成17年)7月1日
金沢弁護士会
会長 久保 雅史