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大飯原発差止訴訟判決に対する会長声明
大飯原発差止訴訟判決に対する会長声明
第1 会長声明の趣旨
当会は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,積極的に判断を示した福井地方裁判所の姿勢を高く評価するとともに,政府に対しては,本判決を重く受け止め,福島原発事故の極めて重大かつ深刻な被害の重みを直視した上で,原子力発電に依存する姿勢を転換するよう強く求める。
第2 会長声明の理由
1 福井地方裁判所は,2014年(平成26年)5月21日,関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に対し,大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)から半径250キロメートル圏内の住民の人格権に基づく大飯原発3号機及び4号機の運転差止請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。本判決は,仮処分決定を除くと,2011年(平成23年)3月の福島第一原発事故以降に言い渡された原発訴訟の判決としては初めてのものであり,極めて意義の大きい判決である。
2 従来の原子力発電所をめぐる行政訴訟及び民事訴訟において,裁判所は,行政庁の科学技術的裁量を広く認め,また,行政庁や事業者の原子力発電所の安全性についての主張・立証を緩やかに認めた上で,安全性の欠如について住民側に過度の立証負担を課したために,適切な司法判断がなされてきたとは言い難かった。
これに対し,本判決は,従来の司法判断の枠組みはとらず,原子炉規制法に基づく新規制基準での適合性審査とは別個独立に,司法は司法としての判断が可能であり,司法の役割としてその判断を行うべきことを明言した。そして,個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益の総体にあたる人格権は憲法上の権利であり,人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできず,原子力発電所の事故はこの人格権が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるところ,このような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば,原子力発電所の運転の差止めが認められるとしたものである。その上で,①基準地震動を超える地震が発生しないとは言い切れないこと,②基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得ること,③使用済み核燃料が堅固な施設によって囲まれていないことなどの事実から,大飯原発の具体的危険性を認め,運転差止めを認めたものである。
3 当会は,2012年(平成24年)5月2日,志賀原子力発電所1号機及び2号機について,福島第一原発事故の原因が解明されておらず,新しい安全基準による審査が行われていないなど,再稼働の前提条件が満たされていない現段階における拙速な再稼働に反対する旨の会長声明を発している。本判決は,基本的人権の擁護という司法の役割を自覚し,高度な専門的・科学的知見を必要とする訴訟においても積極的な審理を行ったものであって,当会の上記声明と基本的認識を共通にするものであり,当会としては本判決を高く評価したい。
4 また,当会は,政府に対しては,本判決を真摯に受け止め,従来のエネルギー・原子力政策を改め,再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるとともに,原発に依存する姿勢を転換するよう強く求めるものである。
以上
2014年(平成26年)7月25日
金沢弁護士会
会長 飯 森 和 彦