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消費者被害と民法の成年年齢の引下げに関する会長声明
消費者被害と民法の成年年齢の引下げに関する会長声明
平成29年9月12日
金沢弁護士会
会 長 橋本 明夫
1 声明の趣旨
民法の成年年齢の引下げにより,18歳,19歳の若年者に対する消費者被害を拡大するおそれが高いことから,当会は,現時点において,民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。
2 声明の理由
選挙年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法等の一部を改正する法律が平成28年6月19日から施行されたことを受け,現在,民法の成年年齢を20歳から18歳まで引き下げることが議論されている。
民法の成年年齢を引き下げた場合における,最も大きな問題は,18歳,19歳の若年者が,未成年者取消権(民法5条2項)を喪失することである。民法では,これら若年者を含む未成年者は,単独で行った法律行為を未成年者であることを理由として取り消すことができる。このため,未成年者が,違法もしくは不当な契約を締結させられた場合,未成年者取消権によって,救済する必要性は極めて高い。
また,消費生活センター等に寄せられる相談において,未成年者取消権を失う20歳になると相談件数が急増することは,未成年者取消権が未成年者に違法もしくは不当な契約の締結を勧誘する悪質な事業者に対する抑止力として機能していることを示している。
さらに,選挙権年齢の18歳への引下げは,18歳,19歳の若年者に国政参加の権利を付与するものであるのに対し,民法の成年年齢の18歳への引下げは,若年者に私法上の行為能力を付与する反面,未成年者取消権という重要な権利を喪失させるものであって,その趣旨を異にすることから,統一する必要はない。
以上のとおりであるから,若年者を含む未成年者を取巻く消費者被害の現状に鑑みれば,まずはこれら現状に対応する施策の具体化,充実化が検討されるべきであり,そのうえで国民的議論をするという手順を踏むべきである。すなわち,現在,改正が検討されている消費者契約法に関し,平成29年8月8日付け,消費者委員会答申書(府消委第196号)において,付言事項とされている「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」について,先ずは喫緊の課題として早急に検討されるべきである。
よって,当会は,現時点において民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。
以上