-
最低賃金額の大幅な引き上げ等を求める会長声明
最低賃金額の大幅な引き上げ等を求める会長声明
第1 声明の趣旨
中央最低賃金審議会は,平成30年度最低賃金改定の目安についての答申において,少なくとも50円以上の最低賃金の引き上げを答申すること,また,地方最低賃金審議会には,主体的に最低賃金額の大幅な引き上げを図ることを求める。
また,政府に対しては,最低賃金の引き上げに取り組む中小企業・小規模事業者に対する支援策や取引条件の改善等について,地方の実情を十分に踏まえ,かつ即効性や実効性を重視した施策に積極的に取り組むことを求める。
第2 声明の理由
1 中央最低賃金審議会の厚生労働大臣に対する平成29年度地域別最低賃金額改定の目安の答申は,全国加重平均25円(石川県24円)の引き上げ(引き上げ後の全国加重平均848円,石川県781円)を行うというものであった。
しかし,848円という水準では,フルタイム(1日8時間,週40時間,年間52週)で働いても,月収約14万7000円,年収約176万円にしかならず,労働者が経済的に心配なく暮らせる水準には程遠い。最低賃金周辺の賃金水準で働く労働者層の中心は非正規雇用である。非正規雇用は,全雇用労働者の4割にまで増加し,特に,女性の割合が多く,若年層で急増しており,しかも,家計の補助ではなく,主に自らの収入で家計を維持する必要のある非正規労働者が大きく増加した。我が国の2015年貧困率は15.6%であり,3年前の16.1%と比べやや改善したものの,貧困ラインは年収122万円のままで変動がない。女性や若者など全世代で深刻化している貧困問題を解決し,また,男女賃金格差を解消するためにも,最低賃金の大幅な底上げが図られなければならない。
最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも問題である。昨年度の最低賃金時間額は,最も低い所では737円(高知県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県),最も高い東京では958円であって,その間に221円もの開きがあり,地域間格差の拡大が続いている。急激な人口減少や県外への人口流出により労働供給が大きく減少している地域経済の活性化のためにも,地域間格差の縮小は喫緊の課題である。
政府は,2015年11月,最低賃金を毎年3.0%程度引き上げ,全国加重平均が1000円程度となることを目指すとの方針を示し,平成28年度は,引き上げ率に換算すると3.0%の答申がなされた。
しかし,方針どおり毎年3.0%ずつ引き上げたとしても,1000円に達するには2023年までかかるところ,政府は,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては,2020年までに「全国平均1000円」にするという目標を明記しているのであるから,目標を後退させるべきではない。
2020年までに1000円にするという目標を達成するためには,1年当たり76円以上の引き上げが必要であるから,中央最低賃金審議会は,平成29年度以降は,全国全ての地域において,少なくとも50円以上の最低賃金の引き上げを答申すべきである。
さらに,石川県の地域別最低賃金について言えば,平成29年7月11日,石川地方最低賃金審議会は,22円引き上げて757円にすることが適当であるとの答申を行った。しかし,1時間757円(2016年(平成28年)10月1日効力発生)というのは,全国加重平均を大幅に下回る。賃金の上昇率,賃金額において上記政府目標にすら及ばず,引き下げ幅は小幅に過ぎるといわざるをえない。
フランス,イギリス,ドイツの最低賃金は,日本円に換算するといずれも優に1000円を超えている。アメリカでも,ニューヨーク州やカリフォルニア州が15ドルへの引き上げを決定したのを始め,全米各地の自治体で最低賃金大幅引き上げが相次いでいる。国際的に見て日本の最低賃金の低さは際立っている。
したがって,当会は,以上のような状況を踏まえ,最低賃金額の大幅な引き上げを図り,地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活を確保すべく,中央最低賃金審議会は,平成30年度最低賃金改定の目安についての答申において,少なくとも50円以上の最低賃金の引き上げを答申すること,また,地方最低賃金審議会には,主体的に最低賃金額の大幅な引き上げを図ることを求める。
2 また,最低賃金額の大幅な引き上げのためには,中小企業・小規模事業者の生産性向上に関する政府による支援はもとより,法人税・社会保険料などの恒久的な減税,下請取引の条件を改善するための規制の強化など,全般的な経営環境の改善に向けた施策が行われることが不可欠の条件となる。この点,使用者側団体・労働者側団体双方からも同趣旨の要望書が出されているところであるが,政府の対応は未だ不十分である。
よって,当会は,政府に対して,賃金の引き上げに取り組む中小企業・小規模事業者に対する支援策や取引条件の改善等について,地方の実情を十分に踏まえ,かつ即効性や実効性を重視した施策に積極的に取り組むことを求める。
2018年(平成30年)6月22日
金沢弁護士会 会長 小堀 秀行