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「預託商法」についての抜本的見直しを求める意見書
「預託商法」について抜本的な法制度の見直しを求める意見書
第1 意見の趣旨
「預託商法」のうち,事業者による物品販売と,販売業者ないしその関連業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態の取引については,金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当するものとして,同法における各種規制の適用対象になることを明確にするよう法令を改正すべきである。
第2 意見の理由
1 問題の所在
⑴ 預託商法の定義と問題点
まず,「預託商法」とは,消費者が購入した商品を,販売業者ないしその関連会社に預託して運用を委託し,運用に基づく配当その他の経済的利益を受ける取引をいう。この,預託商法による被害事例のほとんどは,消費者が業者から商品を購入すると同時に購入した商品を業者に預託する形態がとられ,商品が消費者に引き渡されないために,消費者としては,商品の購入ないし現存を確認することができない。預託商法にはこのような危険性が内在しているため,上記形態に付け込む悪質業者が多く,これまでも,購入したはずの商品が実際には存在せず,また運用の実態を欠いている「ペーパー商法」にまつわる被害が繰り返し生み出されてきたのである。
⑵ ジャパンライフによる新たな大規模消費者被害の発生
そして,ジャパンライフは,主に高齢者をターゲットとして,「レンタルオーナー制度」(顧客が磁気治療器を購入し,購入した商品をジャパンライフに預託し,同社が第三者にレンタルすることによって,顧客にレンタル料が支払われるという内容であった)を展開してきた。このジャパンライフについても,顧客から預託を受けた商品個数に対し,第三者にレンタルしていた商品個数が10分の1程度に止まり,在庫もほとんどないなどの問題があったことが明らかとなっており,まさに,上記預託商法に内在する危険性が顕在化した被害といえる。
その上,ジャパンライフは,消費者庁から上記事由等を理由に約1年の間に,4度にわたる業務停止等の行政処分を立て続けに受けたにもかかわらず,業態を変えたことにより行政処分の適用外であると強弁して事業を継続し,その後,2017年12月26日に,銀行取引停止処分を受けて事実上の倒産状態に陥ったほか,2018年3月1日に,債権者申立てにより東京地方裁判所で破産手続開始決定がなされるに至っている。
そして,報道等によれば,ジャパンライフの被害者は全国で約7000人,被害総額は約2400億円に及ぶとされている。これは,わが国における大規模消費者被害として安愚楽牧場事件(被害者約7万3000人,被害総額約4207億円)に次ぐ金額であり,豊田商事(被害者数約3万人,被害総額約2000億円)と併せて,被害規模で上位3件(ワースト3)がいずれも預託商法によるものであって,今回も,高齢者を中心として甚大な被害が再び発生してしまったのである。
そのため,今回のジャパンライフ事件を最後に,二度とこのような被害が繰り返されないよう,抜本的な法令改正が必要なのである。
2 「預託商法」についての現行の法制度とその問題点
この預託商法については,豊田商事事件を契機として制定された「特定商品等預託等取引契約に関する法律」(以下「預託法」という)により規制されているものの,その後も,預託商法の被害が繰り返されている実態に鑑みると,現行の預託法の法規制では不十分といわざるを得ない。
具体的には,預託法では,業者の事前登録制や,行政庁による恒常的・継続的な業務実態把握の制度,業者に対する全面的な業務停止制度や登録の取消制度,会計監査人監査の義務付け,行政庁の破産申立権限等の制度がなく,その制度の不備を利用して,預託商法の名の下で「ペーパー商法」が繰り返されてきたのである。
3 金融商品取引法による各種規制を及ぼすべきである
そこで,預託商法被害を防止するためには,専ら商品の販売と販売する業者が配当を約して預託を受けることが一体的に行われる類型を,金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当すると明確化する法改正を行い[1],以下のような,金融商品取引法における各種規制(登録制等)を及ぼすべきである。
すなわち,金融商品取引法では,集団投資スキーム持分の自己募集を行う者は第二金融商品取引業者として登録を受けなければならないとしている(29条)。そして,集団投資スキーム持分について,募集・売出の届け出をしようとする者は,貸借対照表,損益計算書,その他の財務計算に関する書類については公認会計士,監査法人による監査証明を要求している(同法193条の2第1項)。また,金融庁,証券取引等監視委員会等に金融商品取引業者をはじめ広範な関係者に対する検査権限を与えており(同法194条の2第1項),行政庁が不適切と判断した場合には業務停止等を超えて登録の取消処分を行うことができ,一定範囲については刑事罰も科している(同法198条の6)。さらに,金融庁には,金融商品取引業者に対する破産申立の権限があり(金融機関等の更生手続の特定等に関する法律490条1項),金融取引業者が債務超過状態にあることが判明した時には被害拡大や財産散逸を防ぐため,破産申立てにより清算手続に移行させる権限を行政庁に付与しているのである。
そして,これらの金融商品取引法における各規制が預託商法に及べば,預託法における不十分な法規制とは異なり,預託商法による被害を効果的に防止することが大いに期待できるのである。
4 まとめ
以上より,ジャパンライフのような甚大な消費者被害が,預託商法の名の下で再び繰り返されないよう早急な法改正による手当が必要である。
よって,「預託商法」のうち,事業者による物品販売と,販売業者ないしその関連業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態の取引を金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当するものとして,同法における各種規制の適用対象になることを明確にするよう法令を改正すべきである。
2018年(平成30年)12月17日
金沢弁護士会
会長 小 堀 秀 行