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司法修習生への経済的支援を内容とする 改正裁判所法成立にあたっての会長声明
司法修習生への経済的支援を内容とする改正裁判所法成立にあたっての会長声明
【趣旨】
当会は,司法修習生への経済的支援を内容とする裁判所法改正法案が国会で可決・成立したことを歓迎するとともに,政府に対し,①今後も法曹志望者が経済的理由により断念することのないよう制度の検証及び必要に応じた更なる充実化を検討すること,②無給下で司法修習を行った者と,従前の給費又は今後の経済的支援下で司法修習を行った者との間の不公平を是正するための措置を早急に検討すること,③不公平是正のための措置の検討が終了するまでの間修習貸与金の償還を猶予することを求める。
【理由】
1 2017年4月19日,司法修習生に対して月額13万5000円の基本手当を支給すること等の経済的支援制度の創設を内容とする裁判所法改正法案が,衆議院・参議院で可決され,成立した。当会は,当該法案の成立を心より歓迎するとともに,当該法案の成立にあたって尽力された,石川県関係の国会議員,石川県内の賛同団体をはじめ多くの関係者の皆様に,深く感謝を申し上げる。
2 2011年に司法修習生の給費制が廃止されて以降,司法修習生は,大学や法科大学院の進学にあたっての奨学金債務を負担している者も多い中,更なる経済的負担のもとで司法修習を受けて,法曹としてのスタートラインに立たざるを得なくなった。全国の法科大学院入学者は,2010年は4122人であったところ,2016年は1857人にまで減少した。このように法曹志望者が急激に減少した一因として,法曹になるための重い経済的負担があると指摘されてきた。
当会は,北陸地方唯一の法科大学院である金沢大学大学院法務研究科(法科大学院)も法曹志望者減少の例外ではなく入学者が減少し,地方で法曹を目指すことが一層困難になっているという事実を重く受け止め,日本弁護士連合会及び全国の単位弁護士会,ビギナーズ・ネット等とともに,司法修習生への経済的支援制度の創設を求めてきた。そして,石川県関係の多くの国会議員,石川県内の多くの団体から賛同のメッセージが寄せられたこともあって制度創設への流れは一層加速し,この度の経済的支援制度創設を内容とする改正裁判所法が,衆議院・参議院いずれも全会一致により可決・成立するに至った。
3 新たな経済的支援制度により,法曹志望者の経済的負担は一定程度軽減されることとなる。もっとも,当該経済的支援制度により,法曹志望者が経済的理由によってその道を断念する可能性が一切なくなったわけではない。政府には,制度の内容が,法曹志望者として有為の人材が確保されるのに十分なものであるかを今後も検証し,必要に応じて更なる制度の充実化を検討するよう求める。
4 また,改正裁判所法は,従前の給費制廃止後から新たな経済的支援制度の下での司法修習が開始するまでの6年間に司法修習生となった者(以下「無給修習世代」という。)に対し,何らの措置も講じていない。
無給修習世代は,全国で約1万2000人,当会会員でも36名にのぼる。無給修習世代の法曹も,給費制下の法曹や,新たな経済的支援制度の下で司法修習を受けて法曹になる者と同様に,日本における司法の担い手としての今後の活躍が期待されるところ,法曹になるにあたって負った重い経済的負担の影響により,必ずしも経済的利益に結びつかない、弁護士の使命である基本的人権の擁護等(弁護士法第1条「弁護士の使命」)のための公益的な活動に制約が生じかねなくなっている。これだけ多くの法曹について経済的負担が取り残されている状況は,単に個々人の法曹が他の法曹と比較して不公平であることにとどまらず,国民のために弁護士が果たすべき使命等の実現に支障をきたすものであり,これは日本の司法にとって重大な問題である。
加えて,平成30年7月から,給費制が廃止された第65期司法修習生であった者に対する貸与金の返済が始まるところ,返済が始まってしまうと不公平な事態を解消するための方策の制度設計において困難な事態が生じる。
そこで,当会は,政府に対し,無給修習世代が重い経済的負担の影響により司法の担い手として活動に制約が生じないよう,従前の給費制及び新たな経済的支援制度により給付を受ける司法修習生との間の不公平を是正するための措置を早急に検討することを求めるとともに,その検討結果が出るまでの間,無給修習世代が司法修習にあたって借入れた貸与金の償還を猶予する措置を講じるよう求める。
2017年(平成29年)6月15日
金沢弁護士会 会長 橋本 明夫