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保証制度の抜本的改正を求める意見書
保証制度の抜本的改正を求める意見書
法制審議会民法(債権関係)部会において検討されている民法(債権関係)改正に当たり、保証制度を以下のとおり抜本的に改正するよう、当会は意見を述べる。第1 意見の趣旨
1 個人保証を原則として廃止すること。
2 個人保証の例外は、経営者保証等極めて限定的なものに限るものとすること。
3 例外として許容される個人保証においても、以下に掲げる保証人保護制度を設けること。
⑴ 現行民法に定める貸金等根保証契約における規律(民法465条の2ないし465条の5)を個人が保証人となる場合のすべての根保証契約に及ぼすものとすること。
⑵ 債権者は、保証契約を締結するときは、保証人となろうとする者に対する説明義務や債務者の支払能力に関する情報提供義務を負い、債権者がその義務に違反した場合は、保証人は保証契約を取り消すことができるものとすること。
⑶ 債権者は、保証契約の締結後、保証人に対し、主たる債務者の遅滞情報を通知する義務を負うこと。
⑷ 過大な保証を禁止する規定や保証債務の責任を減免する規定を設けること。第2 意見の理由
1 はじめに
個人保証は、後述するように、これまで極めて深刻な多数の被害を生んできており、もはや原則廃止とする抜本的な民法改正を行うことが必要な状況にある。2 法務省法制審議会民法(債権関係)部会における審議
法務省法制審議会民法(債権関係)部会においては、2009(平成21)年11月から民法(債権関係)の改正に関する議論が行われており、2011(平成23)年4月12日には「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が公表され、本年2月26日には「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)が公表された。
この中間試案においても、事業者による貸金等債務の個人保証(いわゆる経営者によるものを除く。)等を無効とするか否かについて引き続き検討することとされ、検討課題として明記されているところである。
3 保証契約の特色と保証被害
個人である保証人は、親類や知人から保証人となることを依頼された場合、情誼から断ることが心理的に容易ではない。他方、保証契約は、契約の時点において財産の拠出等の負担は求められず、契約時点において保証債務の現実化が不確実であり、現実化した場合の結果を正確に予測することも困難であるため、将来の危険性を過小評価して軽率に契約する傾向にある。特に、個人である保証人は、主債務者の履行能力や自らのリスクを把握する知識・経験・能力が十分ではなく、保証契約が危険な取引類型であるにもかかわらず、保証人が対価を取得することは稀であり、対価的均衡を完全に欠いている。
保証債務が現実化すると、保証人は、想定を超える債務の負担を強いられ、経済的な破綻を招くことが少なくない。日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編「2011年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば、破産においては約19%、個人民事再生においては約9%が保証等を原因としている。加えて、内閣府の「平成24年版自殺対策白書」によると、2011(平成23)年の自殺者総数は30,651人であり、その内の原因・動機特定者において、経済・生活問題を原因とする自殺は28.4%を占めている。法的倒産手続の原因に占める保証等の割合からすれば、経済・生活問題を原因とする自殺のうち、相当程度が保証を理由とするものと推測される。4 裁判による救済の不十分性
これに対し、裁判実務では、真意ではなく又は過大な保証契約を締結した保証人の保護について、錯誤論や信義則・公序良俗違反、権利濫用などの一般原則による解決を指向しているが、十分な保護が図られていない。5 形勢されつつある金融実務
2006(平成18)年以降、各地の信用保証協会は、保証申込のあった案件について、原則として、経営者本人以外の第三者を保証人として求めていない。金融庁も、2011(平成23)年8月14日付けで「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの監督指針」を改正し、「経営者以外の第三者個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記し、民間の金融機関に対しても、同原則に沿った対応を求めている。すなわち、一部の金融実務においては、経営者保証を除き、個人保証を不要とする実務慣行が生じつつあり、一方でこれにより円滑な金融が妨げられるなどの実害も見られていないのである。6 個人保証の原則禁止
以上のとおり、前近代的な情誼を基礎とし、保証人となった者に甚大な被害を生じさせる可能性のある保証契約による被害をなくすために、個人保証の原則禁止規定や、例外として許容される経営者保証における新たな保証人保護規定を設けることが必要である。7 経営者保証
上記保証契約の特色からすれば、主債務者が会社である場合の経営者保証については、当面はこれを個人保証の禁止の例外とすることが妥当と考えられる。他方で、経営者が多額の保証債務を抱えることが新たな事業への再チャレンジの阻害要因となり、また中小企業の事業承継の妨げになるとの意見も多数指摘されていることから、経営者保証においても、将来的な見直しを引き続き検討するべきである。8 補完的な規則
例外として許容される個人保証において、現行民法では、貸金等根保証契約以外の根保証契約に関しては極度額や保証期間の定めに関する規律がなく、保証人が予期しない過大な保証債務の履行を請求される危険性が指摘されている。この点、貸金等根保証契約に関する規律が儲けられた2004(平成16)年の民法改正に対し、「保証人保護が不十分である」という意見こそあるものの、「保証人保護が過剰である」という意見はほとんど聞かれない。根保証の危険性は、貸金等根保証契約に限らないのであり、自然人が保証人となる根保証契約全般について、現行民法の貸金等根保証契約に関する規制を広く及ぼすべきである。
また、上記のとおり、保証は、その情誼性・無償性・未必性・結果の不可避性などからトラブルの多い契約類型であり、保証に関する紛争では保証の意味を知らなかった、あるいは主債務者の資力は十分であり保証履行することはないと誤信していたなどの事情が背景となることが多々ある。そのため、例外として許容される個人保証においては、保証契約締結にあたり、債権者は、保証人となる者に対し、説明義務及び情報提供義務を負うものとすべきであり、またこれら義務の実効性を確保するため、義務違反の効果として取消権を認めるべきである。
さらに、主債務者が履行遅滞となった場合に、通常、保証人は主債務者の履行遅滞を知る術がないことから、主債務者が履行遅滞となり、債権者が保証人に対して遅延損害金や期限の利益喪失を主張した場合には保証人に不意打ちとなる。そこで、保証人に主債務の遅滞に対する対応を取る機会を確保するために、債権者に対して、保証人への主債務者の遅滞情報の通知や催告の義務を課し、これを怠った債権者は、保証人に対し、遅延損害金や期限の利益の喪失を主張できないものとすべきである。
このほか、保証人が主債務者の破綻により過大な債務負担を強いられ、自己破産の申立や自殺に追い込まれることを回避するため、過大保証を禁ずる規律及び身元保証法5条を参考とした責任減免規定を設けることが適当である。
2013(平成25年)年3月26日金沢弁護士会
会長 奥村 回