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性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明
性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明
趣 旨
当会は,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法解釈を変更し,集団的自衛権行使を容認することに強く反対する。
理 由
1 集団的自衛権行使容認に関する最近の動き
安倍首相は,第186回国会における平成26年6月11日の党首討論において,集団的自衛権の行使に関して,「政府として立場を決定し,閣議決定する。」と,集団的自衛権行使容認を閣議決定においてすることを明らかにした。この間の自民党との協議によって,これまで政府解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に消極的であった公明党も,限定的とはいえ閣議決定による集団的自衛権行使容認に賛成する動きを見せ始めている。
こうした状況からすれば,早々に集団的自衛権行使を容認する閣議決定がなされる可能性は高まっている。同閣議決定後は,今秋の臨時国会において集団的自衛権行使に向けての立法活動も大きく進展することが予想され,集団的自衛権行使容認問題は非常に切迫した局面を迎えていると言わなければならない。
2 集団的自衛権行使を容認する閣議決定の憲法上の問題点
政府は,これまで自衛権発動の3要件を定め,集団的自衛権の行使は,「わが国に対する急迫、不正の侵害」に対処する場合ではないから憲法第9条の解釈上認めることはできないとの見解を示しており,政府答弁や内閣法制局長官答弁でも同見解を前提とした内容を繰り返し表明してきた。かかる政府の姿勢により,国民の間にも広く「わが国は集団的自衛権を行使しない」との信頼が形成されており,対外的にもそのような信頼が定着していると言っても過言ではなく,上記政府見解を結論において変更することは,解釈の幅を超えるものと言わざるを得ない。
加えて,集団的自衛権の行使を閣議決定によって容認することは,以下のとおり憲法上問題がある。
そもそも平和は,個人の尊重や人権保障の大前提であることから,憲法前文,第9条は,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という恒久平和主義,そして平和的生存権を宣明し,私たちは,これを堅持してきたのであり,集団的自衛権の行使容認は,第9条の解釈の限度を超えている。よって,時の政府の都合で憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することは憲法上許されない。
また,憲法前文及び第9条に規定されている恒久平和主義,平和的生存権の保障は,憲法の基本原理であるから,政府が閣議決定によって,集団的自衛権行使を容認する方向で憲法解釈を変更することは,国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反するおそれが強く,許されない。
しかも憲法は国の基本的な在り方を定める最高法規であるから,憲法第96条は厳格な改正要件を定めている。かかる憲法改正の手続を回避し,閣議決定という何ら制約のない手続において集団的自衛権を認めてしまうことは,立憲主義をないがしろにするものと言わざるを得ない。
したがって,閣議決定によって集団的自衛権の行使を容認することは憲法上極めて問題がある。
しかも、以上の根本的な問題点は,集団的自衛権の行使につき,国会の事前承認を要するとか,「限定的に認める」としても,何ら解消されるものではない。
3 結論
当会は,平成26年5月2日に「集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明」を発表したところであるが,今日の政府・与党の動きに警鐘を鳴らすべく,改めて,政府が性急に閣議決定によってこれまでの憲法第9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する次第である。
平成26年(2014年)6月27日
金沢弁護士会
会長 飯 森 和 彦